ワンダーボーイズ(サンプル) 山田太郎 あらすじ 子供の頃からヒーローに異常な憧れを持つ少年、倉吉ケン。甘米町に引っ越した彼は、転校先の甘米第二高で待っているかもしれない新たな出会いへの期待と、どうせ自分が望むような人はいないという諦めの感情が混ざっていた。彼が探しているのは超能力を持ったスーパーヒーローだった。そんな中、倉吉ケンは転校初日前夜の散歩中に超能力少年・赤雷太郎と出会う事になる。地味ながらも確かに超自然的な能力を持った赤の存在に感動したケンは、甘米二高に彼が在籍していた事を知り運命を感じる。しかし、超能力という華やかなイメージの裏腹に、赤雷太郎を含む第二新聞部の面々は、それぞれ超能力者ゆえの悩みに苛まれていた。 【夜の住宅街】 スーパーマンのロゴが胸に大きく光る青いTシャツと、半ズボンを履いた金髪の少年が夜道を歩いている。彼の名は倉吉ケン。彼は歩きながら時より立ち止まり、さまざまなポーズをとっている。 ケン 「はっ!はっ!せい!!」 全身を自由に動かし、ビシっと右人差し指を正面の電柱に向けるケン。 ケン 「電柱破壊光線!!」 そのポーズのまま硬直し、街頭に照らされた電柱をじっと見るケン。電柱には指名手配犯のポスターが貼られている。 ケン 「・・・出ないなービーム・・・ん?」 何かに気づくケン。公園の方を見ている ナレーション「超能力とは???」 【夜の公園】 ボッ、と暗闇の中に灯される小さな火。その火は煙草を加えた目付きの悪い超能力少年、赤雷太郎の指先から出ている。 ナレーション「通常の人にはできない、科学では説明不可能な超自然的能力を          指す名称である――」 指先から出る火をくわえた煙草に近づけると、その真横に浮かび上がる倉吉ケンの顔。 雷太郎 「うわあああ!!」 驚きのあまり尻餅をつき、後ずさりする雷太郎。煙草は地面に落ちてしまう。 ケンは雷太郎に接近し、目を輝かせている ケン  「今、どうやったの?!」 雷太郎 「あ、あああ?!何がだよ」 ケン  「火!火出したでしょ!」 雷太郎 (くそ!見られたか)     「バカじゃねーの?!ってか誰だよお前!タバコに火ぃつけただけだ      ろうが!」 ケン  「・・・なにで?」 雷太郎 「ライターに決まってんだろ、しつけえな。どっか行けよ!」 目を細めるケン。しばらく黙ったのち、ガシっと雷太郎の両肩を掴む ケン  「じゃあ見せて!」 雷太郎 「はあ?!はなせっ・・・」 ケン  「ライター見せて!持ってるなら!チャッカマンでもマッチでもガス      バーナーでもコンロでも火打ち石でもいい!火をつける道具を持っ      てるなら見せてよ!」 雷太郎 「そんなもん・・・なんでお前に見せなきゃいけねーんだよっ!」 勢い良くケンを突き飛ばす雷太郎。雷太郎は転んで地面に横たわってしまう。罪悪感で苦い顔を見せた雷太郎は、即座に振り返り公園を出ようとする。 ケン  「ちょ、ちょ、ちょ・・・」 立ち上がりながら、雷太郎を追いかけようとする赤。雷太郎はすでに夜道を走っている。遠くからケンの声が聞こえる。 ケン  「超能力者だー!!」 雷太郎 「・・・ちくしょう!」 【甘米二高・校庭】 校長先生の朝礼が行われている。壇上に立つ校長の前に、生徒一同が並びその中赤雷太郎が苦い顔を浮かべ立っている。 雷太郎 (くそ、しくじった・・・この町に来て一年間、誰にもバレずにやっ      てきたのに。チーフには内緒にしておこう) 校長  「えー先日起きた甘米銀行強盗事件の犯人がまだ捕まっておりませんのでー生徒諸君は充分注意をー」 雷太郎の背後にこっそりせまる倉吉ケン。満面の笑みを浮かべている。 校長  「では、今日も一日がんばってください。解散」 他の生徒と一緒に、校舎に向かってぞろぞろ歩き始める雷太郎。 雷太郎 (とにかく、あの頭のおかしい金髪野郎には二度と出くわさないよう      に気をつけないと・・・) ケン  「ねえ!」 雷太郎 「おまえはっ!!」 ケン  「火、見せてよ!」 汗を吹き出しながら周りを見渡す雷太郎。他の生徒の注目を浴びている事に気づく 雷太郎 (なんてこった・・・甘米二高の生徒かよ!) ケン  「君、超能りょ」 ケンの口をてのひらで塞ぐ雷太郎。 雷太郎 「わかった!見せるから!とにかく大声は出さないでくれ!!」 ケン  「・・・」 そっと手を離す雷太郎。 ケン  「うん!!!」 雷太郎 「でけーよ声が!」 【本校舎・屋上行きの階段?屋上】 怒った様子で階段をガツガツと上がる雷太郎。その後ろに倉吉が目を輝かせながらついていっている 雷太郎 (ここは一回見せて、口止めするしかねえ。こういうバカには下      手に隠すと騒ぎ立てて逆に注目を浴びちまう) ケン  「ねーまだ?!まだ?」 雷太郎 (もうすでにうるせえし) 屋上の入り口のドアを開ける雷太郎。屋上には誰もいない。 雷太郎が右手の人差指に火を点ける。 ケン  「おおおおおお!」 雷太郎 「・・・」 火を消す雷太郎。 ケン  「ちょ、もっかいやって!もっかい!」 再び火が点く。 ケン  「うおおおおお!!!」 雷太郎 (妙だな。仕掛けやトリックを疑われない。なのに気味悪がられない・・・。普通だったら散々疑いをかけられた後、超能力だってわかった途端に化け物扱いされて・・・) 思い返しながらどんどん表情が曇っていく雷太郎。 ケン  「ねえ!どうしたの?」 我に返る雷太郎。 雷太郎 「あっ?なんでもねえよ・・・もういいだろ」 ケン  「それさ、他の場所からは出ないの?」 雷太郎 「・・・でねーよ。指から100円ライター同然の小っちぇえ火が出る      だけだ。クソの役にも立たねえ」 ケン  「えーじゃあ指から出る火・・・フィンガーファイアー!みたいな?」 雷太郎 「バカにしてんのかおめえ」 ケン  「なんで?あ、そうだ、こうさ、火の玉みたいな、スマブラでスーパ      ーマリオが出すみたいに出来ない?!」 そう言いながら再び目を輝かせながら雷太郎に掴みかかるケン。それを勢い良く振り払う雷太郎。 雷太郎 「っはなせよ!!」 ケン  「え・・・」 雷太郎 「おもしろがってんじゃねーよ・・・超能力者の苦しみも知らねぇク      セに」 ケン  「苦しみ・・・?」 屋上から立ち去ろうと入り口へ歩を進める雷太郎。 雷太郎 「この事、誰にも言うんじゃねーぞ。バラしたらお前を許さない」 呆然と立ち尽くすケン。屋上のドアが力強く閉められる。 【本校舎裏・水飲み場】 ボタンの開いた学ランから赤いシャツが目立つ、ガラの悪い生徒・馬田栄太が地面に座り込んでいる。周りには取り巻きが二人。 不良A「いやーやっぱ馬田先輩の赤シャツかっこいいすねえ!」 不良B「さすが甘米のレッドホースっすよ!」 馬田 「やめろよてめえら・・・まあこんだけ大胆に校則敗れんのは、この馬田様ぐれえだな」 そう言いながら学ランをビシっと両手で治す馬田。 不良A「うおー大胆すぎるぜ先輩!!」 不良B「俺なんかロングソックスで精一杯っすよ!!」 馬田 「へっへ・・・ん?」 水飲み場から少し離れたところにある、本校舎と新校舎をつなぐ廊下を歩く倉吉ケンを見かける馬田。ケンは先ほどあった雷太郎のやり取りのせいか、少し俯きながら歩いている。 馬田 「金髪に・・・スーパーマンだとぉぉぉ?!」 不良A「すっげーー!!あいつ、馬田さんより大胆なんじゃないすか!」 不良B「ぷぷっ」 怒りに震え、顔が真っ赤になる馬田。 馬田 「なんだあのど派手な野郎は・・・ナメやがって!!てめえら笑ってん       じゃねーよ!!」 【夜の公園】 半袖のシャツを着た雷太郎が煙草に火を点けている。 雷太郎 「ゴホッゴホッ」 回想 ケン 「他の場所からは出ないの?」 回想終わり 右腕を身体の前に出し、手の甲を見つめる雷太郎。 雷太郎 「他の場所・・・考えた事も無かったぜ」 意識を集中する雷太郎。 雷太郎 「んんん・・・!!」 うっすらと手の甲に小さく火が広がる。しかしすぐに消えてしまう。 雷太郎 「出た!」 一筋の汗が雷太郎の頬を伝う。 雷太郎 「でも指先と比べて出しにくいし持続できない・・・慣れてないからか?もしかしたらがんばれば今よりでかい火も出せるかも」 新たな可能性に少しばかり興奮を覚えたが、そこではっと我に返り、加えた煙草を地面に投げつける雷太郎。 雷太郎 「・・・って何やってんだ俺は!バカらしい!なんの意味もねえ!」     (あいつ・・・マジで羨ましそうだったな) ?次の日? 【本校舎・一階廊下】 ケン 「いないなー火のやつ・・・屋上にいんのかな」 倉吉の背後に忍び寄る馬田栄太。ケンの肩をつかむ。 馬田 「おいスーパーマン、ちょっと面貸せや」 ケン 「ん?」 状況を把握出来ていないケン。 【本校舎裏・水飲み場】 勢い良く突き飛ばされ、校舎の外壁に打ち付けられるケン。 馬田 「てめえ、調子ノってんじゃねーぞ」 ケン 「痛っ・・なにすんだよ!なんかしたー?!俺」 馬田 「なんだそのフザけたシャツは・・・スーパーマンのつもりか」 ケン 「そうそう!かっこいいだろー。好きなんだ!俺、名前も倉吉ケン、っ     ていうんだぜ!」 馬田 「・・・はあ?だからなんだよ」 ケン 「わかんないかなー。倉吉ケン、略すとクラケン!クラーク・ケントっ     ぽいだろ?!」 馬田 「わけわかんねーこと言ってんじゃねーよ・・・調子のんなっつってん     だろ!」 ケンのみぞおちに鋭いボディブローを入れる馬田。しかし直後にその感触におののく。 馬田 (こいつ、固ぇ!) ケン 「痛くないんだよね、本当は・・・めっちゃ鍛えてるからさ!なんで怒     ってんのか聞かせてくれよ!」 馬田 「てっめえええええ」 すると馬田の後ろから身長2m超の大男が姿を表す。大きく太った腹の高さに馬田の顔が並び、そのでかさを示している。 馬田 「牛仏先輩!」 牛仏 「ケンカぁならよー 混ぜんかい」 馬田 「牛仏先輩ぃあいつやっちまってくださいよ!調子ノってるんですわ!」 牛仏 「んんぁーー?」 ケンの姿をまじまじと見つめる牛仏。 牛仏 「ちょっと目立ち過ぎやなぁこりゃ。馬ぁ!!」 馬田 「は、はい!」 牛仏 「チキンフィレオ10個買ってこいや。その間こいつシメたるわ」 馬田 「はい!おい金髪クソ野郎!死んだなお前!はははは!」 捨て台詞を吐きながら馬田がその場を走って立ち去る。 すると牛仏がケンの胸ぐらを片手で掴み、宙に浮かせる。 ケン 「いたいいたいいたい」 牛仏 「俺はお前みたいにモテそうな奴が大嫌いなんや。ぐしゃぐしゃになっ     てもらうで」 ケン 「くっそ、動けない・・・Tシャツは汚すなよ!」 牛仏 「んああ?」 少し離れたところで、雷太郎が歩いている。牛仏の巨体に気づく。 雷太郎「うわ、また牛仏がカツアゲしてる・・・ん?」 牛仏が掴んでいる相手が、ケンだという事に気づく。 雷太郎「あの金髪バカ・・・あんな目立った格好するからだ。知らねえぞ俺は」 見てみぬフリをする雷太郎。 雷太郎(結局出る杭はぼこぼこに打たれんだ。超能力者だってバレればいじめ     られるし、金髪で校舎うろつけば因縁つけられる。おとなしくしてる     のが一番だ) ポケットの中で煙草のケースを握りつぶす雷太郎。 一方ケンは軽々と投げられてしまう。地面に無残に打ち付けられるも、ゆっくりと立ち上がるケン。 ケン 「お前悪いヤツだな」 牛仏 「そうかもなぁぁ??んんん」 ケン 「へへ・・・全然痛くねえぜこんなの。鍛えてるからな!」 牛仏 「生意気な野郎だ もういっちょくらえ」 再びぶん投げられるケン。 固唾を飲んで戦いを見守る雷太郎。 雷太郎「あいつ、なんで逃げねーんだよ・・・」 再び立ち上がるケン。 ケン 「痛くねえ、痛くねえけど・・・お前の倒し方がわかんねえ」 牛仏 「んあああ?倒すだってー?」 ケン 「俺は格闘技なんか習ってねえし、武器も使わない。そもそもケンカの     仕方なんかわかんねえ。だってケンカで悪いヤツ倒したら、そんなの     ヒーローじゃなくて、ただの不良だ」 牛仏 「ヒーローだあ?!」 ケン 「こんな時さ・・・ビームとか出せたらな、っていつも思うぜ。いつも、いつも!」 再びぶん投げられてしまうケン。 雷太郎(あいつは・・・ただ純粋に憧れてるだけなのか・・・) ボロボロになっていくケンを遠くから見つめる雷太郎 ケン 「さすがに痛くなってきた・・・万事休すか!」 牛仏 「そろそろ馬の野郎が帰ってくるからなあ、食前の運動も終わりじゃあ・・・死ね!」 ケンを宙に浮かせる牛仏。しかし、その時後ろから雷太郎がものすごい勢いで走ってくるのが見える。 ケン 「あ、火のやつ・・・」 雷太郎「うおおおおおおお」 走りながら学ランとTシャツを脱ぎ、飛んで牛仏の背中に抱きつく雷太郎。 上半身が発火し、牛仏の学ランに引火する。 牛仏 「あちちぁぁあ!!」 水飲み場の方へ逃げてしまう牛仏。 雷太郎「悪かったな、ビーム出なくて」 ケン 「いやいやいや!!すっげーかっこよかったよ!」 二人の顔に笑顔が浮かぶ。 雷太郎「まあ、超能力者だからな」 ケン 「てか指以外からも出んじゃん!ウソついたでしょ!」 雷太郎「声がでけーよ!!」 Tシャツと学ランを着直す雷太郎。 雷太郎「お前、超能力に興味あんだろ」 ケン 「うん!!」 雷太郎「実は俺だけじゃねーんだ。この学校にいる超能力者」 ケン 「え?!本当に?」 雷太郎「ああ、ついてこい」 【本校舎4階・廊下】 第二新聞部と書かれた表札が掲げられたドアの前で立ち止まる雷太郎。 ケン  「第二新聞部?」 雷太郎 「ああ。なんも発行してねーけど」 ノックする雷太郎。 雷太郎 「失礼します」 中からの声「開いてるよー」 しかしその場で腕を組み、ドアノブを握る様子を見せない赤。 ケン 「入らないの?」 雷太郎「まあ待てよ」 中の声「入らないのー?」 カチャっと鍵の開く音が聞こえ、ようやくドアを開ける雷太郎。 すると中には学習机を8つ、4×2の二列で繋ぎあわせて作られた長方形のテーブルの周りに、椅子に腰掛ける男が二人、ドア側の壁の左はじの床に座る太った男、そして3人の女子生徒がバラバラに動いていた。女子生徒は3人とも身長が100cm満たない小人で、姿形が全く一緒である。 全員、部屋に入ってきた雷太郎の後ろに見知らぬ男が居る事に驚き、目を見開いている。その中、椅子に腰掛けている男の一人、御岳六坊(みたけろくぼう)が目を光らせる。 雷太郎「ちわっす」 御岳 「赤・・・これは一体何の冗談です?」 第二話 【第二新聞部・部室】 雷太 「こいつ、超能力者に興味があるらしくて・・・」 床に座っている太った男、丸山歌舞斗(まるやま・かぶと)が声をあげる カブト「『興味がある』ってこたぁぁ、ここここの人は超能力者じゃないってこ     となんだなぁ!そうに違いないんだなあ!!チーフ!」 男子生徒・百瀬サダヲが気だるそうに構えながらも、ピリピリした雰囲気を醸し出しながら御岳六郎と向きあうように座っている。片目を覆いかぶさるように垂れる前髪の隙間から、鋭い視線が御岳に向けられる。 百瀬 「どうなんだチーフ」 三人の小さい女子生徒(三好瑠璃子)がシンクロした動作で、ひくひくしながら涙をこらえている。しかし悲鳴を上げてしまう。 瑠璃子「うわああああああああん」 御岳 「ええ、彼は超能力者では無いようです」 カブト「ほらなあ!言った通りなんだなあ!!」 赤  「まあまあ、とりあえず落ち着いて・・・」 御岳 「これは許されませんよ赤!第二新聞部の戒律をお忘れですか!」 立ち上がり、右拳を胸に当てる御岳。 御岳 「一つ!我ら不幸な超能力者クラブ改め第二新聞部は、その存在を世に     明かしてはならない!」 カブト「一つ!我ら不幸な超能力者クラブ改め第二新聞部はあ!!非能力者に     能力を見せてはならないんだなあ!!」 力強く叫んだ二人の視線が百瀬に集まる。 百瀬 「いや、俺はパスで」 御岳 「百瀬!!言うんだ!!」 百瀬 「勘弁してください。すげーだっせぇんで」 赤  「一つ、我ら・・・第二新聞部の部室には、超能力者以外は何人足りと     も踏み入れてはならぬ、でしたよね」 赤と部員のやり取りが続く中、ケンは言葉を失っている。(三つに分身した)瑠璃の姿をまじまじと見ながら感動に震えているのだ。瑠璃はその異常な視線に恐怖を見せている。 カブト「破ってるんだなあ!!最後の掟を破ってるんだなああ!!」 御岳 「掟を破った者には・・・裁きを受けてもらいます!」 赤  「裁き・・・?!」 少しの間沈黙が訪れ、「考える人」のようなポーズを取る御岳 百瀬 「さてはチーフ決めてないな」 カブト「じゃ、じゃあ出入り禁止なんだなあ!!」 赤  「え、一生?!」 カブト「ぐぬぬ・・・三日間で許してやるんだなあ!!」 赤 (や、やさしい・・・) 御岳 「三日では甘い!一週間だ!」 百瀬 「いやーそれじゃあ瑠璃子ちゃんも出入り禁止になっちゃいますよ」 御岳 「なんだと?!」 百瀬 「非能力者に能力見せちゃってますし」 瑠璃子「あっ!!」 部室中の視線が三人の瑠璃子に集まる。目頭に溜まった涙がついに溢れ出し、三体とも机の下に隠れてしまう。 ケン 「やっぱり超能力なんすね!!すっげえええ!!」 赤  「だから声がでけーよお前は!!」 ケン 「どうなってんの?!どうなってんのーー?!」 そう叫びながら地面を這って瑠璃子を探すケン。 御岳 「くっ・・・これでは戒律の方を改正しない限り、瑠璃子と赤を両方に     裁きを下さざるを得ないのか・・・?!」 百瀬 「いや、そんな厳密じゃなくてもいいんじゃ・・・」 赤  「ちょっと、こいつ抑えるの手伝ってくださいよ!!」 瑠璃子「こわいよーーー!!」 すると、四足歩行動物のように地面を這っていたケンの襟を、カブトが掴みぐいっと持ち上げた。目は怒りで震えている。 カブト「瑠璃子ちゃんをいじめるやつは僕が許さない・・・!!」 ケン 「は、はい」 雷太郎(怖ぇ・・・) 二分後? ケンと、三つに分身した瑠璃子を含む七人がテーブルを囲んでお茶を飲んでいる。湯のみには油性マーカーの汚い文字で「第二新聞部」と書かれている。 御岳 「つまり、公園で能力を使っていた所を、転校生である倉吉君に見つかってしまい、超能力者に興味津々な彼をここに連れてきたわけですね」 雷太郎「そんな所っす」 百瀬 「だから煙草はやめとけっつったのに」 雷太郎「反省してんだよ」 百瀬 「フカしてるくせに」 雷太郎「う、うるっせえな!!フカしてなんかねーよ!」 御岳 「静かにしなさい!!赤、それでは説明不足です。一般人に能力を明かす事を誰よりも恐れたあなたが、非能力者を部室に連れてくる根拠にはなりません!」 カブト「そこが不思議なんだなあ」 百瀬 「たしかに」 赤  「そっすね・・・でも、こいつは普通の非能力者とは違うんすよ。なん     かこう・・・変っすよね?」 百瀬 「たしかに」 カブト「金髪にスーパーマンのTシャツなんてセンスがおかしいんだなあ!!」 百瀬 「いや丸山先輩そこじゃなくて」 御岳 「超能力者と聞いて気味悪がらない・・・物珍しがるところは一緒だけど、得体のしれない物を見ているというよりむしろ・・・」 百瀬 「ずっと探していた物を見つけていたかのような感じだな」 雷太郎「そーなんだよ。こいつは超能力とかスーパーパワーにアホかってぐらい憧れてるんす。そんで、見てくださいこれ」 右手の甲をテーブルの中央に差し出す雷太郎。そして手の甲全体と、学ランがまくり上がった腕一帯に火を灯した。 一同 「おお!」 御岳 「赤、いつからこんなことまで・・・」 雷太郎「こいつに教えてもらったんす。ほら、俺たち超能力がコンプレックスだから、能力の幅を広げようとか考えないっすよね。でも俺これができた時、生まれて初めて・・・楽しかったんす」 御岳&瑠璃子&百瀬&カブト 「楽しかった・・・?!」 雷太郎「うっ・・・。ケン!超能力者がどんだけトラウマかかえってっかわかったか!見ろこの人達の顔を!」 四人とも最上級に顔を歪ませて唸り声をあげている。 ケン 「な、なんでなんすかあ!最高じゃないすか超能力!!見せて下さい     よ!」 瑠璃子「絶対イヤだ!!」 百瀬 「いやあんたもう見せてるから。思いっきり」 瑠璃子「あっ!・・・うわああああん」 カブト「僕も出来れば見せたくないんだなあ・・・」 雷太郎「ケン、とりあえず今は俺の説明で我慢しろ。まずこのでかい人が二年     の丸山歌舞斗先輩。能力は浮遊」 ケン 「うおおおお!!ってことは孫悟空みたいな・・・」 カブト「うぐっ!!」 雷太郎「いや、全然そんなんじゃなくて、3cmぐらいしか浮かないんだ。しか     も移動はできない」 ケン 「お、おお・・・」 雷太郎「で、この小さい人たち・・・たち、じゃないか。一年の三好瑠璃子。三つに分身する事が出来んだけど、見てのとおり不自然に小さい。しかもコントロールできなくて、一度分身するとなかなか元に戻れない」 ケン 「ほおお・・・」 瑠璃子「ぐすっ・・・」 雷太郎「ここに座ってるロン毛のやつが一年の百瀬サダヲ。人の目を見るだけ     で相手の所持金がわかる変態能力」 百瀬 「うるせーよチャッカマン」 雷太郎「てめえ!!」 ケン 「すげえ!」 御岳 「雷太郎、早く続けなさい」 雷太郎「チッ・・・で、この人が第二新聞部部長の御岳六坊先輩。みんなから     はチーフって呼ばれてる。能力は」 御岳 「赤、そこから先は私自ら説明する。ずばり私の能力は、PKだ」 ケン 「サ、サイコキネシスですかああ!!」 御岳 「見なさい!」 スプーンを腰のポケットからサッと取り出し、曲げてみせる御岳。 ケン 「うおおおお!!!」 雷太郎が百瀬に目を細めて話しかける。 雷太郎「持ち歩いてんの?」 百瀬 「みたいだな。カレーもあれで食べるらしいよ」 ケン 「本当に曲がってるーーーー!!!!」 御岳 「ふふふ・・・」 ケン 「ってことは、念じただけで炎を消したりとか、車を浮かせたりとかで     きるんすか!!」 御岳 「・・・」 ケン 「へ?」 雷太郎「ケン、それはできねえ。チーフの能力は『スプーンを自由に曲げる能     力』だ。いわゆる超能力っぽい分、ある意味一番かわいそうな能力だ」 御岳 「・・・」 無表情で突然口を閉ざし、静かに座る御岳。 雷太郎「まあざっとこんな感じだ。超能力ってこんなもんだぜ」 ポカンとした顔で赤を見つめるケン。 百瀬 「がっかりって顔だな。けっ」 不機嫌な表情を浮かべる百瀬を尻目に、小刻みに震えはじめるケン。そして雄叫びをあげる。 ケン 「うおおお超能力ってすげええええ!!!!」 赤を除く一同「は?!」 ケン 「人を超えた能力を持ってる人が、こんなにたくさん・・・うう・・・     すごすぎる!!!」 百瀬 「やべえこいつ泣いてるよ!」 ケン 「俺も使いたいなあ!!いいなああ!!」 カブト「そんなにいいもんじゃないんだなあ。」 ケン 「何いってんすか!!例えばその舞空術!」 カブト「舞空術・・・!!」 その言葉の響きに快感を覚えるカブト。同時に首を傾げる百瀬と赤。 百瀬&赤(舞空術・・・?) ケン 「移動できなくたって、重力を無視できる事自体すごいことですよ!例えば高いところから落下中に使ったらどうなるんですか?!」 カブト「そんな危ない事したことないんだなあ」 ケン 「じゃ、じゃあ・・・ジャンプ中は?!」 カブト「ジャンプもしたこと無いんだなあ!」 赤  「えええええ?!」 百瀬 「まああの巨体じゃ・・・」 ケン 「ほら!試して無いだけなんですよ!!」 御岳 「すると、倉吉君は我々の能力に”伸び代”があると・・・?」 ケン 「そうです!!ノビシロ!ノビシロだらけですよ!」 赤  「わかってんのかこいつ」 百瀬 「確かに、俺の能力も数年前よりは性能が上がってる」 赤  「マジで?!」 百瀬 「俺のはみんなと違って使ってもバレないし恥ずかしくないしね」 御岳 「百瀬、口を慎みなさい!それではまるで私達が超能力者である事を恥     じているみたいじゃないですか!」 部室に沈黙が訪れる。 赤  「いや、まさにその通りじゃないすか・・・」 御岳 「そうだな・・・」 カブト「性能が上がったって、どういうことなんだな?」 百瀬 「うーん、細かいところだけだけど、昔は視線を合わせなきゃいけなか     ったのが、今は一方的に見るだけで浮かんでくるし・・・集中しなく     てもわかるようになってきた」 ケン 「ほら!!!超能力は使えば成長する証拠です!他のみなさんは使って     ないだけなんです!」 赤  (やっぱすげえなこいつ・・・あんな能力を嫌がってたこの部屋のみん     なが、自分の能力について考え始めてる) 百瀬 「まあ言いたい事はわかるんだけどさ・・・能力が成長したって意味な     くね?」 ケン 「へ?!」 百瀬 「結局他の一般人に見られたら気味悪がれるだけだし」 カブト「でも、空を自由に飛べたらかっこいいんだなあ!!」 御岳 「私も本物のサイコキネシスが使えるようになったら・・・」 ケン 「その通りです!!気味悪くなんかない!かっこいいッスよ!」 すると机の下から瑠璃子が不安そうに顔を覗かせる。 瑠璃子「私は・・・?」 ケン 「瑠璃子ちゃんは・・・そうだなあ・・・」 カブト「うーん・・・」 百瀬 「瑠璃子の場合、いくら性能が上がったって気味悪いのは変わらないよ」 御岳 「百瀬!!」 大声で泣き出してしまう瑠璃子。分身したまま部室の外へ飛び出てしまう。勢い良く開けたドアが部室の壁に当たる。 瑠璃子「ひどい・・・ひどいよ!!うわあああああん」 カブト「瑠璃子ちゃん!!どこへいくんだな!!」 赤  「まずいぞ 能力発動したままじゃねーか」 カブト「百瀬おんまええええ!!言って良い事と悪いことがあるんだな!!」 百瀬 「・・・」 赤  「あれ?ケンは?」 周りを見渡す赤と御岳。ケンは部室から姿を消している。 【本校舎・廊下】 ケン 「くそっ、俺のせいで・・・どこだ瑠璃子ちゃーーーん!!」 【本校舎・屋上への階段】 三人の瑠璃子は泣きながら屋上を目指して走っている。 【本校舎・廊下】 階段に辿りつき、下ろうとするケン。しかしその時真上から足音が聞こえる。 ケン 「足音が・・・三つ!屋上か!」 【本校舎・屋上】 入り口の扉を開けたケンが見たのは、柵越しに並んで立つ三人の瑠璃子の姿だった。ケンの呼びかけに振り返る。 ケン 「瑠璃子ちゃん!!なにやってんだ!!」 瑠璃子「来ないでよ!」 立ち止まるケン。 瑠璃子「もうイヤなの!こんな能力に悩まされるなら・・・死んだほうがまし!」 目を閉じ足を踏み出す三人の瑠璃子。その瞬間ケンが猛ダッシュを始める。 ケン 「やめろおおおおおお」 しかしケンは勢いあまってフェンスから身体をはみ出してしまい、落下してしまう。 ケン 「やっば・・・」 その時、瑠璃子の分身の一体がケンの右手を掴み、その分身がまたもう一体の分身と手を繋ぎ、かろうじてフェンスを掴んでいた最後の分身の手に捕まった。 瑠璃子「捕まって!」 ぐっと握り返すケンであったが、三人の瑠璃子は力が足りずつなぎとめる事が出来ない。 瑠璃子「この身体じゃ繋ぎ止められない!!」 フェンスに捕まっている瑠璃子の手と、真ん中の瑠璃子の手が離れてしまう。 二体の瑠璃子とケンが一緒に再び真っ逆さまに落ち始める。 ケン 「瑠璃子ちゃん、元の身体に・・・」 瑠璃子「元???」 ケン 「能力を解除するんだ、今すぐ!」 すると、二匹の瑠璃子は同化し、少しサイズがでかくなって、成長したような姿の瑠璃子がケンの右手を握る。そのまま、フェンスに捕まっていたほうの分身に引っ張られるように上昇する。 ケン 「すげえ・・・」 三体の瑠璃子は同化し、今まで小学生のような姿だった瑠璃子とは想像もつかないような、美しい女子高生に変わった。そして再び泣きはじめ、ケンに抱きつく。 瑠璃子「怖かったよーーー」 ケン 「すごいよ・・・すごいよ瑠璃子ちゃん!そんなことできたんだ!」 瑠璃子「元の身体に戻れって言われたから、夢中で・・・私も知らなかった」 ケン 「コントロールできるってことじゃん!しかも、分身同士引っ張り合う     力だってある・・・これはすごい能力だよ!全然恥じる事じゃない!」 瑠璃子「・・・本当に?気持ち悪くない?」 瑠璃子の肩を掴み、視線を合わせられるように体を離すケン。 ケン 「本当だよ」 その時初めて密着した状態に気づき、赤面する瑠璃子。すると屋上の扉が勢い良く開く。カブトを先頭に、後ろに赤と百瀬が来ている。 カブト「瑠璃子ちゃ・・・お、お、おんまえええええ」 瑠璃子「カ、カブト先輩!これは違うんです!」 ケン 「先輩!すごいんですよ!今ね、瑠璃子ちゃんが俺の手を握ってそのま     ま空中に」 カブト「手を握ってだとおおおおお」 【本校舎・第二新聞部部室】 御岳六坊が一人、銀のスプーンをライターで炙っている。 御岳 「倉吉ケン・・・とんでもない超能力者が来ましたね・・・」 今後の展開 カブトや百瀬の能力を伸ばすエピソードが続き、ケンが正式に第二新聞部の部員として信頼を集めるようになる。しかし、御岳六坊の「スプーンを曲げる能力」が実はフェイクである事を赤雷太郎が気づくところから、物語は急展開する。第二新聞部の創設者である御岳六坊は、実は超能力者を見分ける事が出来る能力を持ち、第二新聞部の面々が持つ「超能力」についての秘密を知っていた。また、倉吉ケンが超能力者の持つ能力を伸ばす新たな超能力の持ち主である事も知っていた。 御岳六坊は元々超能力者を集め、その力を利用しようとしていたが、集まった生徒たちのあまりにだらしない能力に嫌気が差しその野望も薄れていたが、倉吉ケンの存在が彼の計画に新たな火を灯す。